「では今度は、真実を聞いてみたいかね、ミスター・ラーズ? 隠し立てしない、ありのままの真実を? 聞いてもだいじょうぶかね? 正直にいって? ほんとうに?」
                
   「ザップ・ガン」 フィリップ・K・ディック(大森望訳) 創限推理文庫

 第二次世界大戦での核兵器使用からのち、西側(ウェス・ブロック)と東側(ピープ・イースト)の闘いは、殺傷能力の限定された戦術へ行きの開発を競う部分で行われていた。そのために必要とされるのが兵器ファッション・デザイナーと呼ばれる人々である。トランス状態になって超次元空間から兵器のデザインを手に入れてくる兵器ファッション・デザイナーは国防のために必要不可欠な存在でありながら、一方ではその地位に取って代わろうとする人々も多数待機しているため、いつもその地位を脅かされているという矛盾した存在。そんな中でも西側トップ・デザイナーの地位を誇るラーズ・パウダードライもまた、そんな地位の不安定さと、どうしようもなジレンマに苦しんでいた――トランス状態で彼が手に入れてくる武器は実際には兵器ではない、というジレンマに。東西の戦争などまやかしで、実際には兵器ファッション・デザイナーが超次元から手に入れてきた武器はさまざまな日用品に改鋳されているにすぎないというジレンマに。ラーズは東側の若き兵器ファッション・デザイナーリロ・トプチェフと会い、彼女と話してみたいと望むが、そんなある日、謎のエイリアン衛星が地球を攻撃してきたために、ラーズとリロは今度こそ本物の究極兵器をデザインしなければならなくなる。だが、そこで明らかになった恐ろしい真実とは……
 ディックいわく「どこか致命的におかしいところがある」作品。……ま、それはそうでしょう、なんてったって「兵器ファッション・デザイナー」である。ネタばれになっちゃうので書けないが、ラーズとリロが兵器デザインを手に入れる超次元の真の姿にはぶっとぶしかない。しかし無茶苦茶面白いことは事実。ディックの初期の短編に使われていたネタが散見できるし、どきどきはらはらの展開は目が離せない。伏線やら登場人物の一貫性のようなことが気になる人にはススメないが、それでもおもしろいですよ、さすがディック。オススメ。



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