「ぼくは魅力的なんかじゃない。ただ奇形に生まれついただけだ。奇形に! だから、ぼくは作り話をする。自分を守るために……。本物の人生には神経過敏になるからだ。生きていくのが難しいからだ」
                  
  「グルーム」 ジャン・ヴォートラン(高野優訳) 文春文庫

 物語は「ハイム」、年齢も人種もなく、どこにも属さない男から始まる。そしてすぐに場面は転換し、アルゴンキン・ホテルのボーイ、12歳のハイムの話へと切り替わる。
 陽気で人好きあいがよく、生意気で小ずるく立ち回る12歳のボーイと、半ば狂気に足を踏み入れた母親イルマとともに閉ざされた家の中で暮らす20代半ばの青年。アルゴンキン・ホテルは、引きこもりのハイムが頭の中で組み立てた空想の世界、セックスと暴力、その合間の人間らしいふれあい、人生そのもの。しかし、ある日、空想と現実の境界線が曖昧となったハイムは事件を引き起こし、12歳のハイムが魅力的な女性刑事と出会う。現実に空想が入り込み、空想に現実が入り込む恐怖。彼は世界をコントロールし続けることができるのか。
 就職祝いくらさんからオススメいただいた一冊。
 妄想をリアルにするためにダッチワイフを用い、それらに鬘をかぶせ、色を塗るハイム青年と、12歳のボーイとのギャップがたまらないのですが、なんといっても重要人物であるビング氏の存在が本当に大きい。最後の最後まで現実なのか妄想なのかわからない空間を占めているところが。ひょんなことからハイムとかかわる女刑事サラにしても、バラキ警視にしても、彼らがまともだとは決していえないところが、それこそ「現実」の危うさを映し出していて、なんとも不気味だと感じさせられたのは、わたしだけではないと思う。そういう意味では、ディックに通じるものを感じさせる作品である。



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