「それはもうわかったわ! いつまで同じことをくりかえしているの! ネズミじゃなくて、あなたの戦いの話が聞きたいのよ! あなた自身の戦いの話が! いつになったらあなたは……」
「グリックの冒険」 斎藤惇夫 講談社
家の応接間においてあるかごの中で育ったシマリスのグリック。けれどある日、伝書バトのピッポーから「北の森」、シマリスにとっての「本当のうち」のことを聞かされたグリックは、故郷めざして旅立つことを決意する。外の世界のことをなにも知らないグリックを助け、「君は、君自身の戦いを戦えばいいんだ」と教えてくれるドブネズミのガンバ。いつのまにか旅の途中の動物園に腰を落ちつかせかけていたグリックに、あなた自身の戦いの話をしろと叫ぶのんのん。彼らの言葉に励まされ、支えられて、旅をつづけていくグリック。
次々にふりかかる危険を乗り越えながら、グリックはいつしか自分の戦いは自分ひとりのものでなく、のんのんとともにふたりで故郷をめざす、ふたりの戦いになったのだと思う。けれど季節は容赦なく冬へとむかい、ふたりの行く手を雪が阻むようになってくる……
足の悪いメスリスののんのんは、はじめのころ、グリックにとって足手まといでしかなかった。グリックは何度ものんのんに腹を立て、自分ひとりだったら……と考える。本格的な冬になる前に森へつかなければと、気持ちばかりがあせるグリックとのんのん。けれど、そんなふたりがいつか、こんな言葉を交わすようになる。
「かまわないわ。森がどうなっていようと、仲間がもうねむってしまっていようと、わたしたちは、わたしたちの穴を掘ればいいんだから」
「そうだよ、のんのん。それしかできないと思うけど、それしかできないということを、どうどうとやるさ」
グリックとのんのんの旅を読み進むうち、ふたり(二匹、とは書けない)がとても身近に感じられてくるほどに、物語の世界に引き込まれてゆくに違いない。ドブネズミのガンバたちの歌う「冒険の歌」を最後に記しておきたいと思う。
さあゆこう仲間たちよ
住みなれたこの地をあとに
曙光さす地平線のかなたへ
聞こえるだろう ほら
梢をゆする風の中に
流れくだる河の歌声が
さあゆこう仲間たちよ
ふりそそぐ日の光を背に
若草もえる岸辺のはてへ
聞こえるだろう ほら
川面をわたる風の中に
はるかとどろく潮鳴りが
われら草の根をまくらに
旅を住処とし
久遠の郷愁を追いゆくもの
さあゆこう仲間たちよ
うずまきさかまく大海原を
残照かがやく水平線のかなたへ
聞こえるだろう ほら
あれくるう風の中に
自由と愛のほめ歌が
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