「そう、酉乃さんの方法だよ。酉乃さんはマジシャン――魔法使いなんだから」
                
  「午前零時のサンドリヨン」 相沢沙呼  東京創元社

 高校1年生の僕、須川には、ほとんど一目惚れのようにして好きになった女の子がいた。酉乃初。いつも憂鬱そうに窓の外を眺めていて、他人を寄せ付けない雰囲気をもった綺麗な子。容姿や雰囲気に惹かれているだけなんていうのは恋じゃない、と思う一方で、どうしても彼女の内面を知りたいと思っていた須川は、偶然、姉に連れられて行ったレストラン・バー「サンドリヨン」で、にこやかにほほ笑みながらマジックを披露している酉乃と出会った。自信たっぷりにほほ笑む姿と、学校での憂鬱な姿と、どちらが本当の彼女なんだろう。ますます酉乃のことを知りたくなった須川は、意を決して酉乃に近づくが、彼女はなかなか打ち解けようとしてくれない。そんなある日、ふたりは思いがけない事件に巻き込まれる。
 連作短編集。米村穂信の「古典部」シリーズのように、学園の日常の謎というものを扱った作品ではあるが、その謎はけっしてほのぼの系の謎ではなくて、どちらかというと痛々しいものばかり。しかも、その痛々しさが妙に作り物めいている(マジックを介在させているためか?)。このあたりが、好みのわかれるところなのかもしれない。
 マジックがなくても解ける謎ではあるが、謎ときにマジックが使われるのには、それなりの理由がある。須川が酉乃を理解できる日はくるのか、酉乃が心をひらいてくれる日はくるのか。ふたりの恋物語として読むこともできる作品。
 第19回鮎川哲也賞受賞作。



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