「あたしはいつも思うの。世界はきっとこんな日に終わるんだなって。空はこんなに晴れてきれいで、澄み切っている。世界はとても静かで、あたしは一人で車を走らせている。この瞬間に世界が終わってしまったらどんなにいいかしらって」
                   
「劫尽童女」 恩田陸 光文社

 物語は「ハンドラー」から始まる。驚嘆すべき能力を持つシェパード、アレキサンダーの操り手。彼とその仲間たち、『ZOO』が狙うのは、アレキサンダーの生みの親であり、その実験結果を握る伊勢崎博士とその息子。しかし、博士は思いもかねない方法で身を隠しており、ハンドラーは半身ともいえるアレキサンダーを失うことになる。
 ――と、ここまで書いていて、ネタバレしないと先に進めないことに気づいてしまった。なにせ、主人公はハンドラーではないのだが、その主人公について語ると、どうしてもネタバレが避けられない。……(どうしよう。しばし黙考)。
 身を守るために殺すことは正しいのか、特殊な能力は何のために与えられたのか。悩みつつ成長する主人公の物語である(と、しておこう。ちなみに、悩むのはアレキサンダーではない、念のため)。
 ひさしぶりに読んだ恩田陸だったが、この人の作品でわたしが好きなのは、自分勝手でわがままで、それがある種の魅力になっている女性登場人物だ。今回は、どちらかというと利他的でいい性格の女性ばかりが登場して、つまらないと思っていたが、やはりやってくれました。
「世界はもともと女のもの」
「世界の潮流は、より具体的で身体的な女性の世界に向かっているの」

 なんていいながら、終わりの日について語るハナコ。こういうオンナを書かせたらぴかイチである。さすが恩田陸。ひさしぶりに、こういう女ばかりが出てくる例の――「木曜組曲」。読み返したくなってしまった。



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