人を殺す人間が、確かに存在している。どんな理由もなく、殺したくなるのだ。成長する過程でそうなるのか、生まれつきそうなのかはわからない。問題は、その性質を隠して、それらの人々は、普通の人間として生活しているということだ。この世界にまぎれこんで、見た目には普通の人となんら変わらない。
                   
     「Goth」 乙一  角川文庫

 笑顔を作り、クラスメイトたちや家族と明るく会話を交わし、一見、どこにでもいる普通の高校生として暮らす「僕」。だが、そんな僕の笑顔が仮面に過ぎないことを見破ったのは、全身黒づくめで無表情、クラスメイトの誰ともしゃべろうとはしない森野夜という少女だった。
 死に魅かれ、殺人や死体といったものの載っている本や新聞を蒐集する「僕」と森野。そんなある日、森野が差し出したのは、最近騒がれている連続殺人犯の日記と思われる手帳だった。ある日、喫茶店で拾ったというその手帳が本物であることを証立てるには、手帳には書いているのにまだ発見されていない死体を先に見つけることだ。そしてふたりは、手帳に書いてある山を目指す。
 短編集。
 殺人犯を追いつめたい、という思いではなく、殺人犯を見てみたい、という悪趣味な興味から、独自に行動するふたり。だが、同じように考え、同じように行動しているように見えても、ふたりが違うことが少しずつ明らかになってくる。殺す者と殺される者。人間であるか、そうではないか。この差は、決して小さくはない。
 連続殺人事件が多く扱われているが、描写は他の乙一作品に比べてさほど生々しくはないので、叙述ミステリが好きな人には特にオススメの作品。



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