「俺は極端な話をすれば、原始社会に戻ってもいいと考えている。文明などいらない。言語などくそくらえだ。俺はハンターなんだ、ひとりでも生きていける、奴隷になるのが何よりも嫌いなんだ」
              
「愛と幻想のファシズム」 村上龍 講談社文庫

 ハンターの鈴原冬二。彼をカリスマへと導いたものはなんだったろう。カナダで出会った相田剣介、「ゼロ」なのか。激動する日本社会そのものか。システムへの怒り、システムそのものを憎悪するトウジをカリスマとする政治結社「狩猟社」には、官僚、学者、テロリストが結集。いつしかトウジが憎悪していたシステムそのものを構築していく。人が生きていくためにはシステムから逃れることはできないのか。
 トウジの論理は簡単だ。弱者は死ね。奴隷に甘んじる人間は死ね。選別された人間だけが生き残る、狩猟社会への回帰。快楽こそがすべて。幻の巨大エルクと同化することを願うトウジは群集に呼びかける。俺に同化しろ、そうすればおまえらはギャップを飛び越えることができる。俺と同化しろ。人びとは彼らをファシストと呼ぶが、一方で日本は巨大金融企業集団「ザ・セブン」に蹂躙されようとしている。全面対決を挑む狩猟社に勝ち目はあるのか。雪崩のように次々に起こる事件から、目が離せない。
 好みのくっきりとわかれる小説のようである。絶賛する人と、嫌悪派と。それでもあえて、この本はすごい! と勧めてしまおう。いつしか現実と虚構との狭間でページを繰るのがもどかしいほどにどきどきする。また、魅力的な女性フルーツに、どんな難しいことを話していても小学生くらいの男の子の友だち同士みたい、といわれるトウジとゼロの関係もいい。ぜひ一度、読んでもらいたいと思う。


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