「……十代の頃、とても生きるのが辛かったわ。毎日が息苦しくて、生きているということに何の意味も見いだせなくて……今、思い出しても、あの頃は真っ白なんです」
             
 「ガラスの麒麟」 加納朋子 講談社文庫

 二月のある日、ひとりの少女が殺された。安藤麻衣子。美しく聡明で、おそらくはとびっきりの幸運の星のもとに生まれたのだと誰もが信じていた少女。……けれど、ほんとうに?
 麻衣子が殺された日から、麻衣子そっくりの仕草で、「あたし殺されたの。もっと生きていたかった」と語りだした野間直子。突然頻発する子猫への虐待。そして、六月になって送られてきた麻衣子から卒業生にあてた一通の手紙。
 登場人物や視点を変えながら、それでも常に関わってくるのは、安藤麻衣子とそのよき理解者であった養護教諭の神野菜生子だ。亡くなった少女と同じ繊細さを持ったまま大人になり、愛するものを失った過去を右足に引きずりながら生きている神野先生の見事な推理と、そして深い深い哀しみと。ガラス製の動物たちのように、美しくも脆く、孤独な存在なのは、麻衣子なのだろうか、それとも神野先生なのだろうか。それとも、十代の少女というのは誰もがそんな脆い一面を持っているのだろうか。
 明るくておしゃべりで人気者で、けれどひとりになると途端に冷めた顔をする少女もいる。忘れがたい過去を抱えて、けれど必死に幸せになろうとしている女性がいる。十代の頃の友情を温めあい、ときに愚痴り、励まされながら生きようとしている女性もいる。麻衣子や神野先生ばかりでなく、この連作短編に出てくる女性たちはみな魅力的で、どこかなつかしい香りがする。きっと、この本のどこかに、わたしもいるから。



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