「あなたは、もしこの島にこなかったら何をするつもりだったの?」
「ぼくは、そんなこと、実は考えたこともなかったんだ。ここで、仲間がこんな目に会っているということも知らなかったし、ここが、というより海がこんなものだということも知らなかったし、いや、何も知らなかったから……きてよかったよ」
                    
 「冒険者たち」 斎藤惇夫 講談社文庫

 ドブネズミのガンバ。心地よい貯蔵穴に住み、静かな住居と十分な食料と、緩やかに進む時間を持ちながら、思い出せるような冒険はなにひとつしたことがなく、ただぼんやりと何も考えずに横になっている町のネズミ。けれど六月のある美しい夜、友人のマンプクに誘われてガンバは港に出かける。変わった食べ物、美味しい食べ物を目あてに出かけたはずのその夜、けれどガンバは島から助けを求めにきた島ネズミの忠太の話を聞き、イタチと戦うために出発することになる。なにひとつ知らないのに。
 船乗りネズミたちの食べている食べ物、話す言葉の意味すらわからなかったガンバが、ただ島ネズミを助けたい、その一心で冒険に乗り出し、成長していく。いや、それも正確ではないだろう……ガンバはほとんどなりゆきで冒険に乗り出すことになってしまうのだ。それでも、ガンバについてきた十五匹の仲間たちがガンバをリーダーに選んだのは、間違いではなかったろう。なにもわからない、そのことを認めた上で、ガンバは精一杯……その名のとおりに頑張るのだから。
 なにもわからないままにリーダーになったガンバを助ける、経験も力もある仲間たち。そのほとんどがひとくせもふたくせもある船乗りネズミたちだが、彼らのそれぞれがまた魅力的だ。名が表すとおりのガクシャやイダテン、アナホリ、夢見がちなシジン、ぼんやりと子どもっぽいボーボ……。わたしは中でもボーボが好きだ。
「海と、島と、仲間と、力強い歌声。他に、何か必要ですか? ぼくは、これで、十分だ。これで……」
 戦いの最中のボーボの言葉に、涙せずにはいられない。



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