教師はつねに正しい。たとえまちがっているときも。
         
「象は世界最大の昆虫である」(ガレッティ先生失言録) 池内紀編訳 白水社

 まずは、なにも説明せず……いくつか読んでもらおう。

「神殿は四角形ではありませんよ。ええ、あなたのまちがいです。あれは正方形です。」
「ヴァチカンの真上に聖ペテロ寺院があり、そこが教皇の住居である。」
「湿地帯は熱されると蒸発する。」
「パリの博物館に展示されている鉱物のなかで、なかんずく注目すべきものは、縫い目のない長靴である。」
「ペルシャはドイツより四倍も広い。ということは、二倍の半分である。」
「今日、だれもが気軽にアフリカにいき、おもしろ半分に殺される。」
「ドイツでは、毎年、人口一人あたり二十二人が死ぬ。」
「ヨーロッパからアメリカに渡った鉱物のうち、とびきりのものがジャガイモである。」
「水は沸騰すると気体になる。凍ると立体になる。」
「ライオンや虎や、そのほか蝿などの襲撃に対し、象はくちばしで身を守る。」

「首巻き用の兎は、世にも珍しい有用な昆虫の一種である。」

 ガレッティ先生は、大学で法律、地理、歴史を学び、「ラテン語文法教本」「幾何学指南」「ドイツ史」、さらには「世界便覧、もしくは全世界の地理的・統計的・歴史的拠説につき、地勢・面積・人口・文化論につき、地理・統計・歴史百科事典」(イミ不明な本だなあ…苦笑)などという、ともかくすごい大著をなしている。ところが、そんなガレッティ先生が、ゴータ王立キムナジウムでした数々の失言……それが、本著である。失言録の最初のものは、先生の死の直後に出たのだという。おそらくはこのように魅力的な先生を失ったことを悼むこころのうちから出た本だったのであろう。それは、授業における失言等々でもよく伝わってくる。

「そうでしょう、ザンダー君、君がベットヒャー君ですね?」
「この点について、もっとくわしく知りたい人は、あの本を開いてみることです。題名は忘れましたが、第四十二章に書かれています」
「そんなにおとなしいと、いまに痛い目にあいますよ。」


 くすりと笑いたいとき。笑いでこころをすっきりさせたいとき。絶対のオススメである。



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