「卵が生まれそうなんですって」
 危ないかも知れないと学校に連絡が入って病院に駆け付けたら、ママが涙を溜めた目でぼくに言った。
               
 「不思議な卵」(「幻少女」所収) 高橋克彦 角川文庫

 夏休みにこしらえた工作の卵。中には水と鈴が入っていて、ピンクの絵の具で塗られてラッカーかかかっている紙粘土の卵。でも、あんまり本物らしく出来たので、入院している弟にプレゼントすることにしたのだ。なんでも願いのかなう不思議な卵だよ…と。二ヶ月くらいでかえるよ、退院とどっちが先かな。どんなことでもかなうなら、可愛い犬がいいな。そんな他愛のない願いなら、パパとママに頼んで簡単にかなえてやれる。でも、弟の容態はどんどん悪くなっていった。いまの願いは、病気が治ること。でも、あの卵にそんな力はないのだ。
 せつなくかなしく愛らしい話だ。――が、この短編集に収められているほとんどは、こんな可愛いものばかりではない。死んだ娘が夜な夜な化けて出るという幽霊屋敷に行く父親。幽霊でもいいから会いに来てほしい、姿を見せてほしいという妻の願いに押されてのことだが、そこで彼が知ったのはさらに哀しい真実。
 夢を日記につけることを習慣にしていた教頭が、予知夢で見たものとは。そして、それを変えようとしたときに起きた悲劇。
 可愛くはないけれど、せつない話は多い。生きているからこそやりきれないような話も。しかし、読ませる。
 夏なので手軽に読める怪談をオススメ。実は角川文庫の「新耳袋」にしようかとも思ったのだが、一晩で読了すると「百物語」が完成されて何かが起こる、という話なのに、二冊連続の二百物語しちゃったのに何も起こらなかったのでこちらにしました(笑)。真夏の夜に(って、サイキンは寒いくらいですが)。
 


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