「て、手前は、ど、どうすれば良いので。あ、あの、そうだ」
 取り敢えず豆腐を嘗めてみますな。
 無意味でございます。
              
 「豆腐小僧双六道中 ふりだし」京極夏彦 講談社

 豆腐小僧という妖怪の話である。ところでこの豆腐小僧、頭はでかいが中身がない。ただの馬鹿。あまりにも何も知らず、出会った妖怪たちにあれこれ教わりながらも、右から左に抜けてゆく始末。ところで、その妖怪たちは「説明」だったり「けじめ」だったり「解釈」だったり。豆腐小僧には理解できなくても、読者はははあ、なるほど。と納得させられる作り。つまり――関口くんよりももっともっとお馬鹿な豆腐小僧のために、京極堂よりも口は悪いが親切な妖怪たちが、あれこれ妖怪の紹介をしてくれる、と、こういう話になっているのだ。
 絵草子の中の妖怪である豆腐小僧には意味がない。本人にも目的も意味もないから、ただあっちに行ったりこっちに行ったり、うろうろするばかり。けれど、どういうわけか、この豆腐小僧がいると、本来ならば人間に感得されなければ出てこられないはずの妖怪たちがぽんぽん出てくる。
 思いました。わたしはつくづく、お調子者のおばかさんが好きなのだと。豆腐小僧の無意味な可愛らしさはたまりません。京極作品読者なら、ははあなるほど、という妖怪の説明があっさり書かれているところも良い(笑)。ただし問題は、本が豆腐のカタチなこと。寝転がって読むには持ちにくく、横を向くたびにページがぐんにゃり。しかも総ページ数は655p。重い。
 短編集かと思っていたら長編だったのですが、さらさら読めます。思わず声をたてて笑ってしまうところもありました。楽しみながら読んでください。手首を傷めないように。



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