「今度の仕掛けもおもしれえ。おめえたちは、てえした知恵者ぞろいだぜ」
               
 「深川黄表紙掛取り帖」 山本一力  講談社文庫

 元禄七(1694)年七月、日本橋。夏負けの特効薬を売り歩く定斎屋の姿を見つめる目が合った。雑穀問屋、丹後屋のあるじ弥左衛門とその番頭徳兵衛である。定斎屋の蔵秀は、夏の盛りは担ぎ売りをしているが、その他の季節は厄介な仕事を請け負うことを生業としていた。丹後屋はそれを伝え聞いた上で、請負い仕事を頼んできたのだ。
 丹後屋が頼んできたのは、五十俵の仕入れを五百俵と間違えて仕入れてしまった大豆の始末である。間違いは間違いとしても、丹後屋はおよそ五百両からの大豆を抱え込み難儀していた。五百俵ともなれば、豆腐屋に卸したとしても処分はできない。さて、いったいどうしたものか。仕事を請負った蔵秀は、男装の絵師雅乃、文師の辰次郎、飾り行灯作りの宗佑ら仲間と知恵を絞る。そして江戸中を巻き込んだ大掛かりな仕掛けが始まった。
 連作短編集。蔵秀たちが請負った仕事はネタも大きければ、仕掛けもでかい。さらには大豆の仕入れ間違いの裏に絡んだ悪事まで発覚して、江戸の渡世人までをも巻き込んだはらはらどきどきの展開になってゆく。爽快感あふれる小説なのである。悪事ではなく、悪いやつをやっつけるために知恵を絞る姿もよい。オススメ。



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