「宇宙服のヘルメットを調整、酸素をチェックせよ」
 何だって?
「キャッチャー・マスクをかぶれ、ホロウェイ」
                   
「防衛機能」(「火星の笛吹き」所収) レイ・ブラッドベリ (仁賀克雄訳) ちくま文庫

 地球を離れ、火星への探査チームに加わったホロウェイは、火星着陸寸前、自分が広い宇宙にいること、地球から遠く離れたところにいること、すがるものが何もないことに耐えられなくなり、半ば発狂する。だが、たった四人の探索チームでは、どの乗組員の力も必要不可欠。彼を癒すことも、眠らせておくこともできない。そこで編み出された最後の手段は、火星を地球だと思い込ませること。ドクターの催眠術のせいもあって(というより、すでにほとんど発狂していたせいもあって)、ホロウェイは苦もなくそこを地球だと信じ込む。だが、忠実な老犬シェプは歯をむき出しながら噛み付いてくるし、大きな赤い市街電車にはウェスト・サイド・ギャングが乗り込んでいて、あっという間に喧嘩になってしまう。ようやくギャングから逃れたと思ったら、今度は仲間のバーマンが自動車に轢かれてしまって……
 短編集。
 ブラッドベリの初期作品を収めているということで、ここはやはり、幻想的でホラー味のする「青い蝋燭」や、のちの「地球の緑の丘」に通じるような「木星行きの予言者」、しんみりした味わいのある「死体回収ロケット」などをとりあげるべきなのかもしれないが……この作品集に収められているいくつかのユーモアSFは、それらを押しのけておもしろかったのだ。
 船長をはじめとする他の乗組員たちには恐ろしい火星の獣や、腐臭のする異星人にしか見えないものも、発狂したホロウェイには懐かしの愛犬や、喧嘩相手のギャングにしか見えない。おまけに巨大な火星獣を氷のワゴン車だと思い込んだホロウェイは、楽しく氷をカチカチ。彼のとんでもない行動が大活躍に結びつくさまは爽快。
 その他、武器の使用が許されない戦争において、相手への心理的な嫌がらせを繰り返す「苛立った人々」、神に会いに行くために全財産を投げ打ったおばあちゃんたちの開き直りを描いた「火星への短い旅」など、くすりと笑える話はかなりのオススメ。ファンタジーやSF、ホラーというくくりがないために、逆にバラエティ豊かなブラッドベリを楽しめる。オススメの短編集。



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