「わたしは昨日、母が戻って来たんだと思ったんです」
                
「不安な童話」恩田陸 祥伝社文庫

 ある日突然現れた客が「生まれ変わりというものを信じておられますか?」なんて訊いてきたら、どう思うだろう。思わずその胡散臭さに失笑し、なんだその手の話か……と一歩ひいてしまう、それが当然だ。けれど。主人公の「私」、古橋万由子はその前日、天才画家高槻倫子の遺作展で強烈な既視感に襲われて失神したばかりだった。目にしたことがあるはずもないのにおぼえのある数々の絵。鋏が首に刺さってくる恐怖感。そして、突然現れたその客、高槻倫子の息子の秒はいう。「母は、布切りバサミで刺し殺されたんですよ」と。万由子はほんとうに高槻倫子の生まれ変わりなのか。首に残る痣は刺し傷か、それともそれらはたんなる偶然か?
 膨大な知識と知恵の塊であり、一般的には異常な変人の部類に入る万由子の上司、博物学の教授浦田泰山を巻き込んで(というよりは彼の好奇心に引きずられる形でもあり)、万由子は秒につきあって、倫子が遺言で残した四枚の絵を、四人の人物に届に行く。犯人は四人のうちの誰かなのか、彼らに会うことで自分の過去の記憶がよみがえるのだろうかと疑いながら。
 もしこの作品がSFならば、生まれ変わりがあって当然、である。しかし恩田陸風の味付けは、「この数々の記憶やら首に残る痣やらが、すべて現代科学で説明のつくところまでねじ伏せられるのでは……?」という期待感を持って展開し、その意味で、二転三転する状況から目が離せない。恩田陸を初めて読む人よりも、恩田陸を数冊読んでいる人のほうがだまされやすいともいえるだろう。
 さてさて、それにしてもあなたは生まれ変わりを信じていますか? 実はわたし、幼稚園から小学校にあがってちょっとくらいまでは完全に信じていました。なぜって……店やガレージのシャッターがあまりにも怖かったから。マンションの防火シャッターも怖かった。上から落ちてくる銀色の板に首を切られた記憶を、まざまざと感じていたんですよね……。



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