「フリーダム・ライターズには夢がある!」
 雨はやみ、わたしたちの声は街中にこだました。
    
  「フリーダム・ライターズ」 エリン・グルーウェルとフリーダム・ライターズ(田中奈津子訳) 講談社

 カリフォルニア州、ロングビーチにあるウィルソン高校に新任の国語教師として着任したエリン・グルーウェル。彼女は教育実習もウィルソン高校で行ったが、そのときから型破りな教師として一部の教員に目をつけられるような授業を展開していた。彼女が行ったのは、教科書どおりの「ふつう」の授業ではない。アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック、ラテン系が多く在籍し、"宣戦布告なき戦争"の中で生きる子どもたちを相手に彼女が行ったのは"寛容の精神"を教える授業。白人のお嬢さん先生なんて、一か月ももたないんじゃないか……と生徒たちが噂する中で始まったその授業は、いつしか、生徒たちにとってなくてはならない時間へと変わってゆく。
 ホロコーストを描いた「アンネの日記」や、ボスニアの戦火を生き延びた少女「ズラータの日記」が、これはあたしと同じだ! と実感できてしまうような生活を送っている生徒たち。人種間の緊張、差別、虐待。街を歩くときには銃撃を恐れてびくびくし、家に帰れば父親の暴力に怯え、母親の無関心に耐えねばならない。そんな彼らだからこそ、はじめのうちこそ馬鹿らしいと思っていた授業の本質に気づいたとき、何かが変わり始める。肌の色や、人種や、宗教や、そんなもので判断されたくない、という思いが、判断したくない、という思いに変わるから。そしてまた、グルーウェル先生も、生徒たちの関心を高めるために、ズラータとの出会いや、アンネ・フランクをかくまっていたミープとの出会いなど、さまざまな機会を提供する。教師の給料で足りない分をホテルの案内係のバイトで補いながら。
 型破りな熱血教師と、同じように型破りな生徒たちの日記。彼らが心情を吐露する日記には、ときどきぎょっとするような表現も出てくるし、ほかの子と同じようには盛り上がれない生徒ももちろんいる。だが、彼らの多くが変わっていったことは事実だ……だからこそ、かつてキング牧師が「わたしには夢がある」と語ったその場所で、さまざまな人種の異なったフリーダム・ライターズの生徒たちが手をつないだとき、胸の震えるような感動を呼ぶ。
 住む場所はあっても"家"をもたない子どもたちが、その教室を、その仲間を"家"と呼び、"家族"と呼ぶ。だが、いつか高校は卒業しなければならない。その後……彼らは、どうしているだろうか。彼らのその後も気になる、そんな実話である。



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