彼らはただアメリカを走って横断するために参加したのだ。何人も彼らを止めることはできない。なぜ走り続けるのかを問う必要もなかった。
       
「遥かなるセントラルパーク」 トム・マクナブ(飯島宏訳) 文春文庫

 人の走る姿はそれだけで美しい。マラソンや箱根駅伝など、よく考えればただ人が走っているだけなのに……いつのまにか、目が釘づけにされている。彼らのひたむきな姿に感動し、まるで自分もともに走り抜けたような爽快な疲労感を覚えることさえある。
 この物語は、ロスアンゼルスからニューヨークまでのウルトラマラソンが舞台である。5000キロ、三ヶ月間の大博打。優勝者には莫大な賞金が出るが、そもそもレースそのものが最後まで成り立つのかも不明なのだ。自分は走りつづけることができるのか、そのことを日々問いながら、ランナーたちの闘いがはじまる。
 最初の一週間で落伍者が続出、けれど、想像よりも多くのランナーたちが必死に走る。灼熱のラスベガスまでの砂漠を、ロッキーの山を。それぞれに個性的な登場人物たちが走る姿だけでも感動的だが、途中、資金繰りのために馬とレースをしたり、綱引きに大金を賭けたりと、はらはらさせられるシーンにもこと欠かない。妨害者のふっかけてくる難題を次々にクリアしていく場面は爽快だ。また、レースを企画した(というよりも夢想した)フラナガンもいい。彼のぶちあげた夢に乗ったのはランナーたちだけではない。いつしか冷笑的で批判的な視線をむけていた新聞記者たちまでもが彼とともに夢み、彼らの味方になっていく。
 仕事を失い、ただ走ることだけが得意だった者たちが、いつしか競争相手としてではなく、互いに仲間としてまとまっていく姿。極限状態で築かれた友情は強く輝かしい。ようやくたどりついた、セントラルパーク。ラストシーンの感動を、ぜひ味わってもらいたい。

 なお、おそらくはこれのパロディSFと思われる「大西洋横断大遠泳」(「スロー・バード」所収。イアン・ワトスン 佐藤高子他訳 ハヤカワ)も一読の価値あり。



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