たとえしばらくのあいだでも、大人たちは気づくのだ。斜に構えたものの見方というのは感情的には近道でも、回り道をしてはじめてみることのできるあらゆる楽しみを、みんな見損なってしまうことにほかならないのだと。
          
 「ワンダー・ワールドの驚異」(「みんな行ってしまう」所収) マイクル・マーシャル・スミス(嶋田洋一訳) 創元SF文庫

  マンガのキャラクターたちが飛びまわり、パレードで愛想をふりまくワンダー・ランド。広がる四つの区域のひとつはホームランド3と名づけられ、老人たちの管理されたコミュニティとなっている。孫たちが喜んでやってくる場所のため、ホームランドで暮らすのは金持ちの老人ばかりとなり、そこでリッキーはうまい商売を考えついた。そこらへんで拾い上げた子どもたちを使って中に入り込み、強盗の限りをつくす、というものだ。唯一の目撃者である子どもをうまく処分してしまえば、ワンダー・ワールドが事件を表ざたにすることもなく、リッキーが捕まることは決してない。ところがある日、リッキーが女の子を連れて行った先で起こる思いがけない出来事とは……――
 短編集。訳者あとがきにもあるのだが、原著表題作というだけあって、この「ワンダー・ランドの驚異」はかなりの出来。といっても、もちろん他の作品も引けを取らない。なにせ英国幻想文学大賞受賞作が2作も入っている。
 気持ち悪さ、という意味ではわたしは「地獄はみずから大きくなった」や「闇の国」のような、ストレートに不気味な作品がかなり怖かった。ストーリー全体はホラーじゃないのに、どこかじわっと怖い「いつも」なども。
 いわゆる血みどろぐしゃぐしゃのリアルホラーではないのだが、死んだ人はどこにいるんだろう、とか、暗闇の先にはなにがある(いる)んだろう、とか、留守番をしているうちに「このドアをあけたら怖いところにつながっているんじゃないか」という怯えがつのってくるとか、そういう理性とは別口の感覚的な恐怖を描いている点で、その手の恐怖感をいまだ克服できていない人(たとえばわたし)にはかなり怖い。実は夜寝る前、2、3話ずつ読んでいたのだが、3晩続けて悪夢を見てかなりうなされた。読んでいるときにはそれほど怖さを感じなかったのだけれど、どこか染みとおってくるものがあったらしい。これって、わたしだけなんだろうか。ぜひ読んだ人に話を聞いてみたい。



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