「100万対1の時間差があるのでは、相互の会話を続けることは不可能だわ。我々が何か気のきいた返事を考えつくまでに、下では質問を発したものは死んでいるでしょうよ」
             
「竜の卵」 ロバート・L・フォワード(山高昭訳) ハヤカワ文庫

 紀元前50万年、太陽系から50光年離れた星域で中性子星が誕生した。一万年に一光年という悠長なペースで太陽系に近づきながら、その中性子星の上で生命が生まれる。だが、彼らの知性はそれほど発達したものではなかった。一方、2020年、人類はその星を竜座のしっぽに発見し、「竜の卵」と名づけ、さらに2050年、発見者の息子であるピエール・カルノー・ニーヴンを含む一行が、「竜の卵」調査隊として恒星間宇宙船セント・ジョージ号に乗り組んだ。人類は中性子星上で生きる生物とコンタクトすることができるのか?
 神のごとくゆっくりと現れた人類の観測船を振り仰ぐ中性子星上の生物、チーラ。彼らは人類の100万倍のスピードで動き、思考するため、その接触ははじめのうちもどかしいほど進まない。しかし、チーラの手製信号に気づいた人類がコンピュータを通じて百科事典のホロメモリーを送信し始めたことで、チーラは一気に人類を飛び越える進化をみせる。
 ファーストコンタクトものとしては…どうなのだろう。文明干渉とかいろいろ問題はあるんじゃないかと思われないでもない。が、とにかくおもしろい。人間にとってはわずかな時間でも、チーラにとっては数百年、数千年にあたるので、それこそ文中でピエールがいうように、ローマ帝国の興亡を眺めているような気分。
 しかも、だ。この話はこれだけでももちろん充分に(充分すぎるほど)楽しめるのだが、さらに続編「スタークエイク」でさらなるワクワクが待っている。
 人類を襲った突然の事故。「のろい連中」を助けようとするチーラと助けなくてもいいんじゃないかと金を出し渋るチーラとの政治的駆け引き。そしてさらに、それに続くスタークエイク…星震によるチーラ文明の崩壊。裏表紙梗概を読むと「ハードSF」とか書かれていて、それで敬遠しちゃったりする人もいるかもしれないのだが、ぜったいのオススメ。読まなきゃ損、の作品である。



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