「人々のために、若く、また高貴に死ぬことは、それほどひどいことだろうか、<太陽の子>よ。生き永らえて、このような姿になることに比べて?」
       
 「月と太陽の魔術師」 タニス・リー(汀奈津子訳) ハヤカワ文庫

 奴隷のデクテオンは逃亡の途中、奇妙な白い顔をした男に連れられて、不思議な世界へと迷い込む。そこにはデクテオンに女が統治する国の話をし、哀しげな顔をしたザイスタアがいた。そして自分がザイスタアに瓜二つであることに気づくまもなく、デクテオンはザイスタアの身代わりとなって女たちの国へと行く。そこは女が主人であり、月が支配する国。赤毛の男のみが月の配偶者となるが、それは五年だけ。太陽は老いることを許されないから。かれが老いたら太陽も衰え、大地は荒廃し、いつかの間に世界は崩れ落ちるといわれている。そのため、女王は五年後とに新しい配偶者を得るのだ。つねに十六歳の赤毛の少年を。
 女王イズヴィアの第一番目の配偶者ザイスタアは己の運命から逃れるために、デクテオンを身代わりにしたのだ。しかし、デクテオンは男が力を持つ世界から来た者。彼は数々のタブーを破り、その中で自分とザイスタアがともに生きる道を探そうとする。
 逃亡奴隷のたくましさと、ザイスタアのおかげで得た魔術とで魅力的な存在となったデクテオン。いいたい放題、好き勝手やってるのだが、それでもザイスタアの娘との交流など、あたたかい面も見せて、良い。反面、デクテオンの代わりにこちらの世界に来てしまったザイスタアは奴隷として捕まってしまうわ、もともとの精神のひ弱さが出てきてそこらの連中に軽く扱われるわ、さんざんである。そのあたり、読んでいて飽きさせない。
 イズヴィアの母であり、女司祭であるクラストの存在も大きい。とくにラストシーンは必見である。



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