そうか、って気づいた。
 人は、大人は、何かを起こした結果について責任を取らなければいけないんだって、当たり前のことに気づいた。そんなこと、考えたこともなかった。
               
「DOWN TOWN(ダウンタウン)」  小路幸也 河出書房新社

 高校一年生の終りの春休み。デパートの三階の楽器店で、「ぼく」、森省吾は中学時代の先輩、ユーミさんとばったり出会い、ユーミさんが働いているという喫茶店のマッチをもらった。<ぶろっく>。ほとんどがカウンターだけみたいな小さな店で、美味しいコーヒーを淹れてくれる。常連のほとんどは仕事をもった女性たちで、それぞれにゆるいつながりを持っているが、店の外でどのように会っているのか、よくわからない部分もある。当初、女性ばかりの場所に足を踏み入れることへの違和感はあったが、常連たちの心遣いもあって、省吾は少しずつ<ぶろっく>に溶け込み、彼女たちが抱えるさまざまな痛みを知ってゆく。しかもそこには、省吾とそっくりな、カオリさんの恋人の存在もあるようで……
 懐かしい香りのする青春小説。常連ばかりの喫茶店でだらだら過ごしている様子や、バンド仲間の孝生とのやりとりなどが、あたたかいゆるさに満ちていて、省吾と一緒に<ぶろっく>に入り浸っているような気分になれる。
 といっても、父親を憎んでいる孝生や、家なんてなくなってしまってもいいと思っている省吾など、彼ら自身にも傷や痛みがないわけではない。だがそれも、<ぶろっく>の女性たちと知り合うことで、少しずつ大人になっていくのだ。
 ひとの痛みを知ることで、そして大人の振舞いを見て、そこから誰に教えられるわけでもなく、大人である、ということを学んでゆく。目覚ましい変化があるわけではないけれど、成長していく省吾の姿は頼もしい。音楽やコーヒーが好きな人、オススメ。



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