「ベン、あなたはこの土地を離れるつもりはないでしょう? 学生時代の友だちとでも結婚して、この土地に落ち着き、家を買って、子供を育て、犬を飼うんじゃないの?」
「すばらしいね」
「最悪だわ」
               
  「黒い犬」 スティーヴン・ブース(宮脇裕子訳) 創元推理文庫

 失踪していた「丘の館の娘」ローラのスニーカーが、犬を連れていた老人によって発見された。まもなく少女も他殺体で発見され、刑事たちが本格的な捜査に借り出される。閉鎖的な村の、さらに頑固で秘密めかした老人たちに翻弄される刑事。その中のひとり、ベン・クーパーは、数年前に英雄的な行為で殉死した「クーパー部長刑事の息子」として村人に知られ、村の内情にも詳しい。一方、都会から赴任してきたばかりでベンとコンビを組むことになったダイアン・フライは、よそ者の女刑事というだけで冷たい視線を浴びる。
 人望厚く優しい刑事であるベンは、ときに感情に走って直感を重視しすぎ、冷静な分析によって捜査を進めようとするダイアンとはまるでタイプが異なる上に、ふたりは昇進をめぐるライバルでもある。ダイアンからみれば家庭的にも恵まれているベンだが、実は彼自身は「黒い犬に背中にへばりつかれている」ような落ち込みに襲われていた。互いに内心を隠し、ときに反発しあいながらも協力して事件を解決してゆくふたり。はたして、少女を殺したのは誰なのか。いったい、老人はなにを知り、なにを隠しているのか……
 第一印象は「Xファイル」(笑)。ちょっと甘くて直感に頼りすぎな男性刑事と、科学的な手法を重視し、冷静に物事を正す女性刑事の組み合わせが、なんとなく。実際この物語はシリーズ化しているようなので、今後のベン&ライアンの活躍が楽しみなところ。もちろん、Xファイルにあったようなちょっとした恋愛めいたやりとりも期待できるのでは…という予感もある。推理そのものよりも人間性を重視して描いているところで好みが分かれるかもしれないのだが、老人達の存在感の見事さだけでも読む価値あり。



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