学校でも家でもそれなりに楽しくて、でもなんとなくいつも窮屈でやっぱり枠に囲まれている気がして、しかもそれはものすごく狭いみみっちい枠だから、なかにいる自分までもが小さくみみっちく思えて、悲しくなる。
               
 「DIVE!!」 森絵都 講談社

 高さ十メートルからの飛翔。時速六十キロの急降下。わずか一・四秒の空中演技。飛び込みという目立たず地味な競技にすべてを打ち込んでいる少年たち。彼らには、マクドナルドにいってお腹いっぱい食べることも、友だちとカラオケに行くことも、彼女と一緒にデートすることも、ない。しかし、彼らが最初から、何もかもを投げ捨てて飛び込みにすべてを賭けていたわけではない。だが、ある日、存続の危機が囁かれているミズキダイビングクラブにやってきた謎の女性コーチによって、彼らはオリンピックという夢にむかって飛び込んでいったのだ。
 中学1年生の知希はのんびりとしていて単純で、誰かと競う、という感覚に欠けている。津軽からやってきた幻のダイバー飛沫は、ふてくされたような顔をしてプールを嫌い、けれど豪快で力強い技を持つ。そして、無口でストイックで、けれど頼りになる兄貴分の要一は、みなの期待を受けて、それを力に変える強さを持つ。物語は、そんな三人を順に追うことで、彼らの心の成長と選手として伸びてゆく姿を追う。
 ひとことでいってしまえば、スポ根。飛び込み、飛び込み、飛び込み。物語のほとんどが、どんな風に飛び込んだか、どこが悪かったか、どうやったらうまく飛べるか、というよいうな飛び込みに関連した話である。ただ、全4巻をまずは1巻ずつ、知希、飛沫、要一……と視点を変えて追っていったことで、知希の目から見れば揺らぎのない強さを持つ年上のふたりにも悩みがあることがわかるし、年上のふたりから見れば単純で可愛いだけの弟分が急成長した理由も見えてきたりする。そして、彼らの思いを丹念に描いたことで、最終巻で彼らがオリンピック選考会に死力を尽くす、その思いがあざやかに浮かび上がってくるのである。
 勝者がいれば、敗者がいる。日ごろどんなに支えあっている友人でも、ひとたび競技となればライバルだ。だが、ライバル以上に強く結びついた友人がいるだろうか? みみっちい枠を越えるために、彼らはただひたすらに水の中に飛び込んでいく。名詞で止められた文章が苦手な人にはつらいかもしれないが、読む価値はあり。オススメです。



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