そう、間違いない。『オズの魔法使い』だ。
 ミロクはライオン。クビツリはカカシ。地蔵はブリキのきこり。コトは犬のトトだ。
 それじゃあ、私はドロシーなの?
 ついつい、くすくすと笑ってしまう。
                  
 「だからドロシー帰っておいで」 牧野修 角川書店

 市役所勤めの孝と二十歳で結婚し、以来、夫に罵られ、息子に無視され、それでも、自分は苦労らしい苦労はしたことがない、私は幸せだといい聞かせてきた主婦の伸江。妻に聞こえることがわかっていて、家に連れてきた部下の前で平気で不平や悪口を口にする夫の声を聞きながら、伸江はふと、「今日は特別な日だから」と義母にもらった赤いエナメルの靴を履いて家を出て行く。
 そして、風に吹き飛ばされて「私」がたどり着いたのは風輪の地という、日本ではない見知らぬ土地。「私」はそこでミロクという男に騙されたり助けられたりしながら、オズノ王がいるという地を目指して旅を続ける。
 ――異例の事態ですが最初にお断りしておきます。この本は万人にススメられるような本ではありません。
 そもそも、オススメ本にいれるつもりはなかったのだが、とあるオフ会でこの本について語っていたところ「今日いちばん生き生きと語っている」といわれてしまったのである。……そうかも。
 物語は「real」(三人称)と妄想世界ともいえる部分(一人称「私」)とが交互に出てくる構成。妄想世界の「私」=「伸江」たちは、風輪の地からオズノ王の地まで、悪い連中の手をかいくぐり、仲間を増やしながら旅を続けていく冒険者である。伸江はここで、虐げられて失っていた自我を取り戻していくといってもよい。一方、現実世界では若者が路地で女に刺殺され、浮浪者を連れた女は警察の目も届かないところを逃げ回っている。しかし彼女達が黄色い煉瓦の道(イエロー・ブリック・ロード)ならぬイエローブロック・ロード、道路上の黄色い点字ブロックに沿って行動しているのだということを発見した集団がいた。彼らこそ、家族を殺された者たちが私刑を決行しようというために集まった被害者家族会。独自の情報網を駆使して彼らは女に迫ってゆくが、果たして……?
 牧野修世界ががんがんに繰り広げられている。万人にはススメられないけど、読んでもらうとちょっとうれしい。



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