一人だけ、普通の子供を見かけた。そちらの方が自然なのに、わたしはとても驚いた。
          
   「チヨ子」(「チヨ子」所収)宮部みゆき  光文社文庫

 スーパーのバーゲンセールで風船を配るバイトにありついた「わたし」。しかしそれは、ボロっちいウサギの着ぐるみを着てのことだった。暑いし、くさいし、なんだかほこりだらけ。とたんにやる気がうせてしまったが、引き受けた限りは仕方ない。意を決して着ぐるみをかぶって外をのぞくと……なんとそこには、ぬいぐるみやロボットなどの姿が! 自分の姿を鏡で見て、そこに幼いころ大切にしていたウサギのぬいぐるみ、チヨ子を見た「わたし」は、いま自分が目にしているのは、みなが幼いころに大切にしていたぬいぐるみやロボット、おもちゃであることに気づくが……そんな彼女の目にも普通に見える少年がいた。
 短編集。
 ホラーやファンタジーなど、不思議な物語ばかりを集めたもの。「チヨ子」はどちらかといえばそれほど怖くないファンタジーだが、かつて同級生を殺されたクラスメートたちが再会する「雪娘」や、自分の知らないところで救世主に祭り上げられてしまった少年犯罪者の物語「聖痕」など、かなり不気味な話もある。「いしまくら」は事件自体は凄惨だが、被害者の名誉を回復しようと奔走する娘と、そんな娘を見守る父親のやりとりがほのぼのしていて、読後感もあたたかい。宮部みゆきのいろいろな面が読める贅沢な一冊。



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