「あたし、特別の子? あたし、特別の女の子?」
 私はにっこりした。「ええ、あなたは私の特別の子よ。キツネがいってるみたいに、あなたを友達にしたからには、あなたは世界じゅうでただ一人の子よ」
        
 「シーラという子」 トリイ・L・ヘイデン(入江真佐子訳) 早川書房

 学区の中で愛情を込めて「くず学級」と呼ばれる特殊学級を担当しているトリイ。8人の、重度の情緒障害の子どもたちのクラスに、ある日、シーラという女の子が加わることになる。
 シーラ。六歳の彼女は、三歳の男の子を連れ出して木に縛り付けて火をつけ、州立の精神病院に入ることが決まっていた。ところが精神病院に空きがないために、それまでの間、トリイのクラスで預かってくれ、ということでやってきたのだ。垢まみれでひどい臭い、くたびれたオーバーオールとTシャツ姿のシーラは、トリイにむかって「あんたなんてだいきらい」といい、クラスで大切にしていた金魚をつかみ上げ、鉛筆で目をくりぬいては床に投げつけるという暴挙まで働く。戦いの連続、最低限のことさえ守らせることのできない日々。けれどそんな中で、トリイは自分にできること、シーラのためになることをひとつひとつ探してゆく。そしてシーラもまた、そんなトリイに少しずつ心をひらき、応えてゆくようになる。
 生まれてから六年間、疎んじられ、無視され、拒否されつづけてきたシーラ。実の親にさえ見捨てられた彼女を、トリイが抱きしめ、話しかけ、愛情を与えることによって、幼い彼女の心、可能性をひらいていく過程は素晴らしい。
「胸がいっぱいに大きくふくれてる。すっごく大きくなってるんだよ。あたし、いちばん幸せな子かもしれない」
 シーラが微笑みながら花を抱いてそういうとき、思わず胸が熱くなるのをおさえられなかった。そしてまた、トリイとシーラを結びつけたのは、「星の王子様」の読み聞かせでもある。ここでもまた、本ももつ力の大きさを感じずにはいられない。
 なお、この話は実話である。シーラがその後どうなったのか……ぜひ、この本を読んで考えてみてほしい。



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