自分はこの件でなにかをつかんだという確信があった。問題は、いずれもずいぶん古い話だという点だ。これが新しく生々しい出来事なら、ことは別で、なにか発見できるかもしれないのだが。
           
 「警察署長」 スチュアート・ウッズ(真野明裕訳) 早川書房

 南部の小さな町デラノ。1919年12月の寒い朝、町の名士であり銀行家のヒュー・ホームズは、警察署長の職につくことを希望しているウィル・ヘンリーとの話し合いをもった。経験豊かな警察官をよその警察から引き抜くことは不可能であり、ならば町の人々から敬意を払われている人物を署長に……と望んでいたホームズにとっては、願ってもないことだった。同じ日、やはり署長にと希望してきた"フォクシー"ことフランシス・ファンダーバークとは比べものにならず、市議会の決定を経てウィル・ヘンリーがデラノの初代署長に就任する。間抜けな銀行強盗や夫に暴力をふるわれる妻といった事件の中、ある日、若者の全裸死体が発見される。K・K・Kの犯行かとも思われるが、調査を進めるウィル・ヘンリーが目をつけたのは別の人物だった。そして、数年後ふたたび起こる殺人。しかし、一方で黒人と白人との対立も激化し、ウィル・ヘンリーは思いもかけない事件に巻き込まれてしまう。
 律儀でいい人からの 就職祝い、5月分。
 物語はデラノの三代にわたる警察署長を追う形で進められるのだが、中心に据えられるのは若い男性が拷問の末に殺害されるという殺人事件である(実に40年以上にわたって43人も殺害されるというとんでもない連続殺人)。ホームズを始め、第一部の登場人物たちも歳をとって登場するが、中には第一部で妻に暴力をふるっていた飲んだくれの夫、という夫婦から生まれた赤ん坊だったサニー・バッツが第二部で署長になったり、ウィル・ヘンリーの息子ビリーが州知事選に絡んで事件と深く関わっていったりと、その成長による変化の大きい者たちもいる。デラノの町の歴史を追った物語といってもよい。
 第三部では、南部の町が黒人の警察署長を迎えたことで、その変化の大きさに町中が揺れる。
 アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。深みのある登場人物たちによる小さな町の物語。ただでさえ魅力的な話の上に、殺人事件という刺激も加わる。オススメ。



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