「おれは身に覚えのない容疑で起訴されて、お門違いの罪で有罪になったんだよ」
                「ザ・レッド・キング」(「プリズン・ストーリーズ」所収) ジェフリー・アーチャー(永井淳訳) 新潮文庫

 服役中のわたし、「ジェフ」は、囚人仲間のマックスから、こんな話を聞くことになった。とはいえ、マックスが本来の罪で起訴され、有罪になっていたら、はるかに長い景気を務めねばならなかったのだが……お門違いの罪で有罪になっているというマックスの、思わずにやりとするオチ。ジェフが出会う犯罪者たちは、どこか憎めないところがあって、繰り返し犯罪を犯したとしても、なんだかそれさえもが、仕方ないなあ……と舌打ちして見逃すしかないような連中なのだ。そのせいか、彼ら自身の、あるいは彼らが知っている犯罪者の物語もまた、小洒落ている。とはいえ、わたしが一番オススメする「この水は飲めません」は、洒落たオチとはいえないかもしれないが……生粋のロシア人で殺人請負人だというカールから、<交流>という名の休憩時間に聞いた、ロシアで人を殺してまんまと逃げおおせたリチャード・バーンズリーの話。妻から離婚を言い渡され、多額の慰謝料をもぎ取られそうになったリチャードは、決して飲んではいけない水道水を妻に飲ませるのだが……――読了後、最初に戻って、カールの「人を殺してまんまと逃げおおせた奴を知っている」「イギリスで殺しちゃだめだ」「ロシアのほうがはるかにチャンスが多い」なんて台詞を読むと、ここが伏線か! と膝を叩いてしまうのだが。
 実際に刑務所暮らしを送っていた著者が、刑務所の中で耳にした話を脚色した物語たち。いや、それにしてもほんと、転んでもタダでは起きない人です、この人も。



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