自分のことを誰かが大事な友人だと思ってくれていた。なのに、私はその相手のことをきちんと考えていたとは言えない。一人で立っていられる自分が好きだなどと思い、相手より自分が一段上にいるような気分をどこかで感じていた。
             
   「カカオ80%の夏」永井するみ 理論社

 大学の付属校に通う「私」、三浦凪は、クラスの女の子たちからはちょっと浮いていた。受験して高校から入ったせいで、下からあがってきたような子たちと話が合わないのか、凪がその子たちと違うのかはよくわからない。とはいえ、彼女たちは決して排他的でも攻撃的でもないし、凪もまた、花壇に色鮮やかに咲いている花のような彼女たちの近くにある低木、といった位置づけで満足していた。そして、笠原雪絵も、同じような低木の一本。大した話はしたことがないけれど、どこか気になる存在だと、凪はそんな風に思っていた。……そんな風にだけ。けれど、珍しく雪絵に頼まれて、雪絵の着る服をコーディネイトしてからしばらくして……雪絵が姿を消した。ブログで知り合ったモデルやお嬢様にも、洋服や化粧について相談していたという雪絵。大学の福祉学科に進学したいといって、セミナーに通っていた雪絵。あまりよく知ろうともしなかった友人の姿、もしかしたら雪絵は自分に何か言いたいことがあったのではないか? 自己嫌悪に陥る凪。
 はじめのうちは雪絵の母親に頼まれ、やむを得ず雪絵の失踪にかかわってゆく凪だが、捜査の過程で知り合った人々に支えられ、ときに孤独を感じ、ときにやりきれなさや自己嫌悪を抱えながらも、雪絵を探し続けることをあきらめない。
 離婚家庭、大学で教える母との二人暮らし、クラブに通い、酒を飲み、化粧をし、情報収集はブログ検索やメールを駆使、というあたり、いまどきの女子高生っぽさがよく出ているのだろうか(よくわからないけど)。べたべたした関係より、距離感を保つ関係を美しいとする自意識の強さなど、痛々しいほど10代の女の子という感じがして、そんな凪の必死になっていく姿がストーリーを盛り上げている。
 カカオ80%、ちょっぴりビターな夏の物語。



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