「長い物語みたいなものです。それが始まったのが十八年前。けど、物語はまだ終わっとらんのですわ。決着をつけるには、最初に戻らんといかん。ま、そういうことです」
                 「白夜行」 東野圭吾  集英社


 大阪の廃墟ビルで、質屋の男が殺された。容疑者は次々と浮かぶが、それぞれにアリバイがあり、決定的な証拠がないまま、事件は迷宮入りする。だが、刑事である笹塚はその後もその事件を追い続けた。というよりも、関わらざるを得なかったのだ。被害者の息子である桐原亮司と、加害者の娘である西本雪穂。まったく関係のないように見えるふたりだが、その後、彼らの周辺で次々に事故や事件、殺人が発生する。まったく別々の道を歩んでいるように見えるふたりだが、どこかに接点があるはずなのだ。そして、美しく才能あふれる女性として振る舞っている雪穂にも、どこかに隙はあるはず……――
 物語は、亮司と雪穂のその後と、彼らを追う刑事笹塚を描くことで進められる。とはいえ、笹塚に関しては、行き詰まりともいえる状況に対する焦燥、迷いが描かれているが、それとは対照的に、亮司と雪穂の内面が描かれることはまったくといっていいほどないし、ふたりが共謀しているシーンなどもない。彼らが何を考えているのかを知る手がかりはほとんどないのだ。だが、ちょっとした小道具や、彼らと関わった人々の台詞から見えてくるものを類推できる事実は恐ろしい。
 同じように悪事に手を染める男女ふたりを描いたものとして『幻夜行』があるが、『白夜行』のふたりのほうが殺伐としているような気がする。特に、雪穂の異常性というか悪女ぶりは他に例をみない。
 ドラマ化、映画化もされた東野圭吾作品だが、映画やドラマでこの恐ろしさのどれほどが表現できているのだろう……――



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