「……武者の生業は戦うこと。武士の生業は、戦いを収めることだ」
「武士は戦わなくていいの」
「武士も戦う。だがその最終目的が違う。武士ならば、いくつ勝ったかより、一つひとつの戦いをどう収めたかを重視する。そういうことだ」
                                「武士道セブンティーン」 誉田哲也 文藝春秋社
 
 前作の最後でも明らかになったが、父親の転勤によって東松学園を離れ、福岡南高校に転入することになった甲本早苗(父親と母親の再婚によって、旧姓に戻る)。剣道を続けることも、剣道強豪校に転入することも、磯山香織に伝えることなく来てしまったが、剣道を続けてさえいる限り、いつかは会える――そう思っていた。しかし、強者を伸ばし、弱者を切り捨てていく福岡南の稽古法は、早苗の中に違和感をつのらせ、剣道そのものへのやる気も奪ってしまう。
 一方、それまでの兵法から、これからは「武士道」だということに目覚めた香織だが、実際のところは何が武士道で、何がそうじゃないのかいまひとつわからない。とはいえ、個人ではなく団体の中で自分の生きる道を探し始めた香織は、後輩を育て、ときには自分を殺してまで部を盛り立てていくことを考えるようになっていた。
そんな二人が、インターハイで再会する。
 今回は、剣道の高度競技化などということを口にする福岡南の黒岩レナ、香織に邪険にされても懐いてくる後輩の田原美緒、「武士道シックスティーン」の冒頭に登場しながら、その後は姿を見せなかったヘタレ清水のその後……など、新しいキャラ、懐かしいキャラが入り乱れて、香織と早苗、ふたりの個性を際立たせている。お互いの家族とのかかわりも、相変わらず、よい。
 武士道というよりは武者修行の香織、敵陣のただなかに放り込まれながら、自分なりの武士道を模索する早苗。二人の武士道は、どこに向かうのだろう。オススメ。



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