十代の日々を思い返しながら生きるのは自虐だ。
                「ブラバン」 津原泰水 バジリコ


 大麻を隠し持って来日したポール・マッカートニが一曲も演奏することなく母国に送還され、イラン・イラク戦争が勃発し、カープが日本シリーズでバッファローズに勝利したかと思えば、師走にジョン・レノンが狂信的ファンに射殺された、1980年。
 物語は、その1980年に典則高校に入学し、ふとしたきっかけで吹奏楽部の一員となった彼らの視点から描かれる、吹奏楽部……いや、「ブラバン」再結成の過程である。
 そう、彼らはいまや皆成長し、もう20年以上も楽器になど触れたことのない生活を送っている。順調な生活を送っているものもいれば、精神のバランスを崩してしまったものも、気ままといえば聞こえがいいが、客の来ない店を抱えて苦労している者もいる。死んでしまったものさえも。互いに心の片隅で気に掛けながらもばらばらに自分の暮らしを生きてきた彼らが、ブラバンメンバーの一人、桜井のたっての願いで、彼女の結婚披露宴での演奏にむけて、ブラバンを再結成することになる。そしてその再結成の過程で思い出される、高校時代。
 もともと僕が記録したかったのは四十路の僕たちが再び集結するプロセスであって、高校時代のエピソード群はそのための背景描写に過ぎない。
 語り手はそう書いているが、彼らの高校生活の輝きは、そのまま物語の輝きともなって、深い印象を残す。コンクール優勝するような学校ではない。練習風景も先輩後輩の人間関係も、スポ根まがいに厳しいわけでもなければ、恋愛沙汰に満ちているわけでもない。どこにでもある、ごく普通の地方の高校の一クラブの活動風景だが……だからこそ、どこか懐かしく、愛おしい。
 高校生が読んでも、大学生が読んでも、感動できないかもしれない。この本は、それこそまさしく、1980年に……あるいは1980年代に、10年、15年、20年以上も前に高校生活を送った人のためのものだと思う。
 登場人物が多くて苦労するが、親切に別紙で登場人物紹介がはさんである。その助けを借りながら、いっとき、彼らのブラバンに加わってみるのも楽しいと思う。



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