とつぜん、ある考えが思い浮かんだ。ドナルド・ジンコフはきっと、どの生徒よりも忘れられない子になるだろう。
        
「ハッピー*ボーイ」ジェリー・スピネッリ(千葉茂樹訳)理論社

 ジンコフは1メートルもある長いキリンの帽子をかぶって入学した。学校が大好きで、毎日おどろくことばかり。すてきなことがあると、お母さんが胸に銀の星をつけてくれる。「おめでとうを千回分!」。
 ジンコフは誰にも読めないような字を書き、大人になったら父親のような郵便屋さんになることを夢見、サッカーの試合ではめちゃくちゃに走り回ることだけが楽しかった。いろんなことが楽しいジンコフは、四年生のときに「発見」された。ジンコフが変わったのではない――成長したみんなの目が、変わったのだ。はちゃめちゃで騒々しく、胸に星をつけ、でたらめに歩く。なんでもかんでも進んでやりたがるけど、運動会では足を引っ張る「グズ」のお荷物。そのときから、ジンコフの世界は少しずつ少しずつ変わってゆく。ジンコフは変わらなかったのに。そして中学に入ったジンコフは、姿を消した。いままでどおりのジンコフだったけれど、そんなジンコフはもうだれの目にも映らなかった。グズ以下になってしまったジンコフは、それでも学校が大好きだった。そしてある雪の日……――
 最後の章に出てくるボンスが思うように、理解できないなにか、ぼんやりとしか思い出せないなにかがジンコフにはある。それはかわいそうなことなのかすてきなことなのか。
「スター・ガール」のスピネッリ。あいかわらず、胸が痛くなる作品。



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