五十何年前の戦争中の日本にいた人間たちは、喋り方や動作は爺むさく婆くさいけれど、俺たちとそんなに変わんない。いいやつもいれば、嫌なやつもいる。俺たちと同じように笑って、怒って、泣いて、悩んで、怯えて、信じて、誰かを好きになって、自分を認めて欲しがって。
                  
 「僕たちの戦争」荻原浩 双葉文庫

 高校を卒業して、フリーター生活をしている尾島健太。バイト先の先輩がうるさいから、とっとと辞めてやった。いつかでかいことやってやるって思ってるのに、理解しないのは親のほうだ。最近では恋人のミナミも、健太がふらふらしていることを怒っているけど、誰も俺のことをわかっちゃくれないだけなんだ……と思っている。物語は、そんな健太と、「海の若鷲」を夢見て、初の単独飛行に臨んだ石庭吾一とが、どんな運命のいたずらか、入れかわってしまう……というところから始まる。最初のうちはドッキリカメラか何かだと思っていた健太は、次第に情勢が悪化する戦時下にいることに気づき、厳しい訓練に耐え、なんとか生き延びる道を探すことになる。一方、吾一のほうは、赤毛や金髪の女性の多さに、はじめはここが同じ日本であることさえわからないが、ようやく自分が未来にいることに気づき、命を賭けていた戦争が敗戦で終わることにショックを受ける。
 外見が似ているだけで、性格はまるで異なっているふたりが、時代を超えて入れかわる。いつしか自分が自分であることを主張せず、相手になりかわって生活するようになるが、それでもふたりは何とか元の時代に帰ろうと手を尽くす。
 健太が元の時代に帰りたい、と望むのは当然だ。物資も乏しく、いつ命を失うかわからない特攻隊にいるよりは、安全で便利な未来に戻りたいと願わないことはない。だが、吾一が元の時代に帰りたい、帰らねばならないと思うのはなぜか? その吾一の思いが伝わってくるのは、不思議なことに、いつしか戦時下の状況に慣れてきた健太の思いからだ。
 大切な人のために、大切な人を守るために。
 切ないけれどおもしろくて、ちょっぴり悲しい戦争の物語。



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