「おれはおまえに好かれたくなんかないんだ! おまえなんか!」
                 
「異形の花嫁」 ブリジット・オベール(藤本優子訳) ハヤカワ文庫

 トランスセクシャルのボーは、殴られても嫌われてもジョニーを愛している。ジョニーはオカマのボーと一緒にいるだけで耐えられないと、殴る蹴るを繰り返した挙句にボーの手首さえも折ってしまうのだが、それでもボーにとっては、それがジョニーのしたことだというだけで許せるし、幸せなのだ。
 そんなボーの周囲で起こる連続殺人事件。ボーの知りあいばかりが狙われ、しかも壁には「BO」と血文字のダイイングメッセージさえ残されていたのだ。犯人は自分じゃないことを証明するため、ボーはあちこちに動き始めるが、犯行は繰り返されてしまう。犯人はいったい誰なのか、何がどうボーと関わってくるのか。
 「森の死神」「マーチ博士の四人の息子」とトリッキーな小説が次々に登場し、すごいすごいと思っていたら「ジャクソンビルの闇」や「雪の死神」でちょっと違う……とがっかりさせられることもあったので、今回もどきどきしてページをめくってみたのだが……なるほどね! 解説にもあるが、オベールが恋愛小説を書くとこうなるのか、と思って読むと、さすが。と唸ってしまう。ただじゃすまない。
 推理の謎の部分はともかくとして、設定が既にオベールらしく歪んでいる。サディスティックな男につきまとう女装した男。ボーにとっては真剣だとしても、冷静に考えれば(考えなくても)これは完全なストーカーだ。しかもボーは女装すればほぼ完全に女性に見えるにも関わらず、ジョニーに会いに行くときにはほとんど素顔でジーンズをはき、両性具有の曖昧な格好でせまりに行く。殺人の陰惨さや二転三転するラスト、前回「雪の死神」でがっかりした人にも、はじめてオベールを読む人にもオススメできる一作。なお、映画好きで知られるオベール、作品内に「キタノの映画」と出てくるのって、北野武のことでしょう。注目!(笑)



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