「きっと、犯人は俺だぜ」
            
「黒と茶の幻想」 恩田陸  講談社

 三十代後半、それぞれに家庭を持つ男女4人が、日常を離れて旅をする。目指すはY島「三顧の桜」。一年に3回咲き、心疚しい者には見えないという不思議な桜。彼らは高校時代の同級生に大学時代の同級生が加わっていて、つかず離れずこれまでつきあってきているが、「旅」をするのは今回が初めて。そこで、旅の計画立案者である彰彦から提示されたのは「安楽椅子探偵紀行」。子どもの頃の記憶、日常目にする不思議、ちょっとした噂話。「美しい謎」ときをしながら旅をしよう――というのだ。
 ホテルの食事中に、道を歩きながら、彼らはさまざまな謎を提示してはいじりまわし、あるときは尻きれとんぼに、あるときは見事にオチをつけて、「美しい謎」を解き明かしてゆく。けれど、ここには口には出されないもうひとつの謎があった。――梶原憂里。彼らの前にほんの一時期現れた少女。彼女は生きているのか、それとも……殺されたのか。
 最初にお断りしておくが、わたしは恩田陸はとても好きなんだけれど、この話をオススメするのにはちょっと悩んだ。人物造型がやや甘い(特に男性)ので、読んでいて、漠然と違和感を抱いてしまう作品であるからだ。それでも。
 他愛のない謎を交互に出し合っている中に、口に出さない梶原憂里という少女に関する謎(このあたりは「麦の海に沈む果実」と関連)があり、彰彦が唐突に思い出した、友人が殺された未解決事件の謎がそれに微妙に絡んでくるといったあたりは見事。しかし、この謎は利枝子、彰彦、蒔生の三人の視点から語られる章で解けてしまう。それでは残された節子は? このあたりが、恩田陸、うまくなったよねー(えらそうですみません)と思ってしまう部分なのである。「三月は深き紅の淵を」などが例としてわかりやすいが、最初はがんがん飛ばしていくのに、最後に失速しがちな作品が多かったように思うのだが、これに関しては違う。節子の存在が、うまく物語を着地させている。
 それにしても、彼らが学生時代を振り返るところなどを読んで、妙に親近感がわくのは、年齢のせいですかねえ……



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