「たまたま皆さまそれぞれに違う筋道を辿られました。わたくしはただ、残った道を行ってみただけのことでございます」
         
 「黒後家蜘蛛の会」 アイザック・アシモフ(池 央耿訳) 創元推理文庫

 黒後家蜘蛛の会――ブラック・ウィドワーズの会員は、それぞれに個性的で、己の専門分野のみならず幅広い知識を誇る面々である。話題になるのは物理や数学、シェイクスピアや聖書、滑稽詩にオペラ、ニューヨークの治安から暗号解読、シャーロック・ホームズに不思議の国のアリス。とにかく、ありとあらゆるネタについて、これでもかというほどの知識が披露される……それも、ただ論争を楽しむために。なんと贅沢なことだろう。豪華な食事とともに饗される知の御馳走である。
 しかし、いつしか月に一度の会食に招かれたゲストの話は、会員が望むと望まざるとに関わらず常に謎をはらんでいて、それを解くために面々はやっきになって頭を捻ることになる。談論風発ということばがあるが、とにかく語って語って語りまくり、意見の衝突はあたりまえ、話が横道をそれないときはないほど。しかし、いつも謎を解くのは、会員たちの話を側に控えて聞いているヘンリーなのである。
 読者としては、会員が披露する知識に幻惑されるだけでなく、むずかしいことはわかりません、自分はただ、みなさまが残されたただひとつの道を行ってみただけです……といいながら、あざやかな手際で謎解きをするヘンリーに惹かれて、この連作短編集を読み進んでしまうことになる。アシモフのこれでもかというひけらかし(苦笑)がよく活かされた作品でもある。
 それにしてもいいですよね。気の会う仲間で月に一度の会食。ひとりのゲストと、よくわきまえてくれている給仕。
 そういう会食をわたしもしたい……謎はともかくとして(笑)。



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