「つまり、性別よりも中身が大切ってこと?」
「そう。つまんない男になるくらいだったら、女のまま恰好よくなりたいね。でも――」
             
「BG、あるいは死せるカイニス」石持浅海 東京創元社

 大流星群が日本で見られた夜の翌日。天文学部員として、学校の屋上で天体観測をしていたはずの姉が、学校の裏庭で死体となって発見された。マフラーで首を絞められ、レイプ未遂の姿で発見された姉。しかし、いったい誰がレイプなんか? 生まれたときはすべて女性、のちに約四分の一が男性化するというこの世界では、女が男をレイプすることはあっても、男が女をレイプするなんて滅多にないことなのだ。もしやこれは、女性犯人の偽装なのでは――?
 美しく、誰からも慕われていた優秀な姉、優子は男性化候補の筆頭だった。みずから事件に関わることは望まない妹の遙だが、しかし周囲は優子から何かを聞いているはずだ、と遙に接触してくる。そこで浮かび上がってきたBGという言葉。単なる都市伝説なのか、それとも実在するものなのか。親友美紀とともに、遙は謎に踏み込んでいく。
 世界設定はSFなのだが、ロジックは完全にミステリ。世界がしっかりしているために、誤魔化された気持ちには(あまり)ならないし、なによりこの世界のユニークなこと。
 生まれたときはすべて女性で、生物学的に優秀な者だけが男性化する社会。優秀さの基準としては経産婦であることも含まれる。そこで、優子と遙姉妹の関係は、優子の母が男性化して遙の父、というものである。生物学的に優秀だとされた男性は、男性だというだけで高い地位につき、高い給料をもらっているのだが、ここに実はものすごい皮肉、女性側の策略が隠されている。それは読んでのお楽しみ。
 しかし、こういう世界にもし自分がいたら――女性のままでいいです、わたしは。面倒だし(笑)。



オススメ本リストへ