「なっ、野球っておもしれえよな」
「うん。おもしろい。すげえ、おもしろい」
「すげえ、おもしろいよな」
             
    「雨上がり」(「晩夏のプレイボール」所収) あさのあつこ 角川文庫

 短編集。
 肩を壊したピッチャー、女の子ではずっと野球が続けられないと知った野球好きの少女。野球を続ける兄への憧れ。目指していたものを手にしたその後に苦しむエース。はじめて野球にふれ、そのおもしろさに目覚めた小学生。
 年齢も性別もそれぞれの野球に向かう立場も違う。けれど、野球が好き、野球っておもしろい、その思いだけは共通している。見ているのがおもしろい、思いがけない展開を見せるからおもしろい、ボールを受けることが、バットを振ることが、おもしろい。読んでいるだけで、野球に対する熱い愛情が伝わってくる小説である。
 もちろん、「バッテリー」にもあったような、複雑な感情もある。追求すればするだけ、ただ好きだといってばかりはいられないこともあるからだ。とはいえ、それでも芯にあるものはやっぱり、好きだという気持ち、わくわくするような楽しさなのだろう。
 物語は、肩を壊した元エース真郷と、野球へのトラウマを持つ現エース律を描いた「練習球」「練習球U」を最初と最後において、そのあいだに8編の短編が入っている。
甲子園の前後に読むと、すっごく盛りあがれそうな気がする。



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