「身体だけじゃない。良祐さん、ロビイを成長させて。いつまでも変わらないなんておかしい」
            
「亜希への扉」(「あしたのロボット」所収)瀬名秀明 文藝春秋

 大学院を修了し、ロボット・コンサルティングの小さな事務所をひらいていた「ぼく」、杉原良祐のところに、ある日、幼い少女が壊れたロボットを持ち込んできた。時代遅れではあるが、それほど価値が下がったともいえないロボットが捨てられていたらしい。捨て猫や捨て犬に対するように、すでにロボットに感情移入している少女のために、良祐はそのロボットを修理した。そしてロビイと名づけられたロボットの修理代金のために、少女亜希は良祐の事務所でアルバイトをするようになった。義肢作成者の父にもないた亜希だったが、やがて成長するにつれて学校も忙しくなり、亜希が訪れることも少なくなってゆく。そしてある日……
 短編集。
 生活の中にロボットが普及されていく過程を描いた作品であると思う。登場人物たちは科学者や研究者といった人々ばかりでなく、一般人であり、そんな彼らにとって役に立ち、便利なロボットは、一方で魂や意志をもった存在ではないかという不気味さもはらみ、ときには愛しつづけても成長しない相手に憤りや哀しみを抱かずにはいられない。人間の社会は、まだロボットを受け入れるほどに成長はしていなかったのではないか……悩み、迷う主人公たちをみていると、そんな風にも思う。
 アシモフのロボットものとはひとあじ違うロボット短編集。それにしても、小学生のころは21世紀になったら自宅に1台ロボットがいるものだと信じていたあの頃が懐かしい……




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