「良いも悪いもありません。人生は決まっていますし、それにどちらにせよ野球は続きます」
              
 「あるキング」伊坂幸太郎  徳間書店

 負けて当たり前、連勝すればよくやったと感心される弱小チーム、仙醍キングスは、万年最下位、オーナーにすら勝つことを求められていないチームだった。だが、そんなチームに、かつて南雲慎平太という天才的なバッターが存在した。誰もが移籍するものと思っていたチームに最後まで在籍し、個人ではそれなりの記録を残したが、チームとしては一度として優勝することなく、自己犠牲の神様のように思われていた彼は、のちに仙醍キングスの監督になったが、やはり負け続けた。しかし、そんなチームを熱狂的に愛するふたりの男女がいた。山田亮、桐子夫妻である。彼らはひたすらに仙醍キングスを応援し、南雲慎平太を熱愛した。そして奇しくも、この二人に子どもが生まれた日こそ、南雲監督が野球場での事故で亡くなった日だった。
 ふたりは、いつか王が求め、王に求められる存在になるようにと、子どもを王求と名づけ、野球選手になるべく育てはじめる。そして、王求は、両親が思う以上に天才的な才能をもつ少年だった。王求はいつか仙醍キングスの選手となるだろう。そして仙醍キングスを優勝に導くであろう。それだけが両親の夢であり、誇りでもあったが、運命は彼らの思いもよらない方向へねじ曲がっていく……――
 両親から異常な愛情と熱意と希望とを注がれる王求。しかし、多少大げさになっているとはいえ、こういう子どもたちは実際けっこういるんじゃないだろうか……と思ってしまったりもした。
 「あとがき」で作者本人が書いているように、いつもの伊坂幸太郎とは、やや雰囲気の異なる作品。妙に不気味な部分などもあり、好き嫌いは分かれるかもしれない。



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