「いまのところ、迷っているのはタイトルなんだ。『白い少女』とか『夏色の恋』とか、それもんのタイトルを考えていたんだが、ホラー的要素を盛り込むとなると、さてどうしたもんだろう。『戦慄の高原慕情』じゃ、あまりにあまりだし」
            
 「ラベンダー・サマー」瀬川ことび(「青に捧げる悪夢」所収)角川書店

 映像研究会のオタク男三人が、秋の学祭にむけてビデオ製作をしようと高原の別荘地……といえば聞こえがよいが、とんでもないド田舎にやってきた。しかし、苦労して連れてきた「女優」に逃げられ、主役の晃司の猛反対をよそに、監督兼脚本の由紀夫が女装してのラブストーリー撮影を決意する。すっかり「女優」になるつもりの由紀夫、カメラマンの隆行。ふたりに引きずられ、晃司はしぶしぶ撮影先のラベンダー畑へとむかうが、そこにいたのはオフホワイトのワンピースを身につけ、白い日傘をさしたレースとフリルで出来上がったような美少女だった。当たるを幸い、彼らは彼女を使ってラブストーリーを撮影しようとするが……
 アンソロジー。
 恩田陸、乙一、小林泰三、若竹七海、近藤史恵、篠田真由美……とそうそうたるメンバーが名を連ねている。どの作品をとってもぞっとするような怖さやひたひたと迫る恐怖、せつないホラー、などバラエティ豊かでレベルも高く読みやすい。恩田陸に関していえば「麦の海に沈む果実」の番外編が読めるというマニアックな楽しみ方もある(逆にいえば、「麦の海…」を未読だという人がどこまで楽しめるのかは実は謎)。おそらく編集もかなり気を使っているせいだと思うが、小林泰三と乙一を続けて読むと、不気味で気持ち悪い気分がかなり続く。ここでこのふたりを並べるか? と思うのだが、改めて考えると、この順番しかないな、と思わせるところもすごい。
 このレベルの高い作品群の中にあって、イチオシは実はこの「ラベンダー・サマー」。ユーモアホラーというのだろうか、実際の出来事はホラーなのだが、登場人物たちのおとぼけぶりがなんともいえずおかしみを誘う。オススメ。



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