「みんなにはわたしのこと、見えてないの。見えてるのは榊原くん、あなただけ……だとしたら?」
            
  「Anotherアナザー」綾辻行人 角川書店

 東京の私立K**中学から、とある事情で、亡き母の実家である夜見山にある、夜見山北中学に転校することになった「ぼく」、榊原恒一。しかし、転校初日となるはずの日は、人生二度めの入院初日。左肺が「原発性自然気胸」という病気で、パンクしてしまったからだ。ゴールデンウィーク明けまで新しい学校に行けず、病院で過ごさなければならない。退屈をもてあました恒一は、ようやく動けるようになってふらふらしていた病院内で、霊安室に降りて行こうとしていた少女、ミサキメイと出会った。そのときは深い話などできなかったが、登校していった3年3組でミサキの姿を見つけた恒一は、どうにも彼女のことが気になって、積極的に話しかける。だが、気づいてみれば、ミサキ――見崎鳴に話しかけているのは、どうやら恒一だけのようなのだ。先生たちでさえ、ときには授業をサボリ、途中で抜け出し、勝手なことをしている見崎を注意することはない。生徒たちに至っては、<いないもの>に話しかけるのは危険だ……などという始末。
 26年前、やはり夜見山北中学3年3組だった亡き母、理津子。どうやらそのとき、ミサキだかマサキだかいう生徒が亡くなったことが、「呪われた3年3組」の始まりらしい。同じく15年前、3年3組だったという母の妹、怜子がいやに現実的に告げた「夜見北での心構え」は、「クラスの決めごとは絶対守るように」というものだったが、鳴に話しかけてしまうことは、クラスの決めごとを破ることなのか? いや、そもそも、自分以外の人にも、鳴の姿は見えているのだろうか……。恒一が不安に思い始めたとき、学級委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた。ようやく恒一が知った、呪われた3年3組の秘密とは。
 死者は次々に出るが、恒一がのんびりしたタイプであるのと、恒一の周囲にいるのが、年上好きの美少年・望月、お調子者の勅使河原、と、憎めないやつらばっかり。学園ホラーとして楽しめること請け合い。これまで読んだ綾辻作品の中でも、読みやすさといい、伏線の張り方といい、けっこう上位に入るんじゃないだろうか。悪意ではない、単なる現象。だから、止めることも困難。理不尽な運命に、恒一たちはどう立ち向かっていくのか。いろんな意味で、恒一というキャラがよい。オススメ。




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