「マリラ、明日がまだ何ひとつ失敗をしない新しい日だと思うとうれしくない?」
「あんたのことだもの、またたくさんの失敗をするにきまってるよ。あんたみたいに
間違いばかりする人は、見たことがないよ、アン」

             「赤毛のアン」モンゴメリ(村岡花子訳) 新潮文庫

 もうすでに読んだ人も多いだろう。読んだことのない人も、内容くらいは知っているのだろうか。そこで……読んだことのない人にきいてみたい。なぜ読まないの? と。 「世界の名作」なんて、お上品な女の子とか教育的なオチとか、なんとなくよい子向けっぽくてやだ……なんてことを思っているのだとしたら、大きな間違いだ。
 男の子が欲しかったクスバート家に間違えてもらわれてきてしまった孤児のアンは、おしゃべりで夢みがち、思いついたことはなんでも深く考えずにやってしまうので失敗ばかり。幾何(数学)が苦手で、自分の外見に悩み、最新流行の洋服に憧れる……そんな女の子だ。
 全身これ「活気と火と露」のようなアンはよろこびもかなしみも人の三倍くらいに感じてしまうので泣いたり笑ったり、大忙し。いちばん気にしている赤毛を「にんじん」とからかわれただけで男の子の頭に石盤を振り落とし、それを叱った先生が自分の名前のつづりをAnneではなくeのないAnnと書いたことにも傷つき、腹を立て、学校にも行かなくなる。強情なアンにはいつもはらはらどきどきだ。彼女は生きていることそのものを楽しんでいて、読んでいるこちらまで楽しませてくれる。アンはいう。
「これから発見することがたくさんあるって、すてきだと思わない? あたししみじみ生きているのがうれしいわ――世界って、とっても面白いところですもの。もし何もかも知っていることばかりだったら、半分も面白くないわ。そうでしょう? そうしたら、ちっとも想像の余地がないんですものねえ」
 腹心の友ダイアナとの友情。厳しいマリラ、アンを甘やかすマシュウ小父さん、このふたりの老兄妹とアンのあいだにはぐぐまれる愛情。プリンスエドワード島の美しい季節の移り変わりの中で描かれる生活は、アンでなくてもうっとりするほどすばらしい。
 そしてやはり忘れてはならないのは、アンを「にんじん」と呼んだギルバート。アンを見つめ、アンの髪から落ちた花を胸ポケットにしまうようにもなる彼は、頭もよくてハンサムな好青年。ところが愛するのも激しいが憎しみも強いアンは、そんな彼を絶対に許そうとはしないのだ。このあたりはもう読んでいるこちらが苛々するほど……。しかもアンの理想は黒髪の貴族的な青年で(夢みがちなアンは理想も高すぎるほど高い)、たとえ仲直りしたところでギルバートはアンの理想からはちょっと遠い。じれったくてじれったくて……(そこがまたいいのだが)本当にどきどきさせられるし、ギルバートに肩入れして読んでいると突然出てきた外見だけの男の子にときめいているアンに「ばかーっ」といいたくなる。
 あまりに有名な本だから、「でもこのふたりって結ばれるんだよね」と思っているあなた。でもね、ふたりが本当に結ばれるまでにはギルバートのやさしさと、アンの成長が待たれるわけで……実際、三冊かかる。ただし、それまでが読んでいて本当にじれったいふたりの愛だから、ギルバートを愛していることに気づいたときのアンの台詞には思わず涙。
「赤毛のアン」「アンの青春」「アンの愛情」。この三冊は夢みがちな失敗ばかりの女の子が、数ある失敗を乗り越え、「夢の王子さま」から現実の本当の恋人を見つけるまでの、ラブストーリーでもある。シリーズの中でも、この三冊は必読。
 何度でも繰り返し読める本だ。「赤毛のアン」だけでもいい(とはいえぜったいに後を引くとは思う。だってギルバートとどうなっていくのか知りたくなるはずだもの)。ぜひ、少女のうちに手にしてほしい。


オススメ本リストへ