なまじ寮があるために命を落とした教師は、数えあげたらきりがない。
                   
 「アメリカの大学」 潮木守一(講談社学術文庫)

 アメリカの大学。ハーバード、マサチューセッツ、コロンビア、プリンストン・・・楽々、指折り数えることの出来る大学名を、わたしたちはいくつも知っている(に違いない)。アメリカ人が日本の大学をどれだけいえるか、ということと比較してみるまでもなく、アメリカの大学にはそれだけの「伝統」やら「権威」やら「実績」があるような気がしている人って、実は多いのではないだろうか。
 しかし19世紀はじめ、アメリカはドイツからの移民を大量に受け入れる一方(約21万人)、多数の学生をドイツへと送り出していた。当時のアメリカの大学は、復唱中心の授業であり、学生はただひたすら教師に与えられた課題を暗記し、間違えずに読みあげることだけを繰り返すだけだったからだ。彼らは「ジェントルマン」を育てるという名のもとに、厳格な規則を強いられ、寮で教員や寮母とともに暮らす生活をしていた。しかしその「一つ屋根のもとでの共同生活」「教師と学生の全人格的接触」は、つまるところ「24時間監視月の強制収容所」であり、「全人格的反逆」へとつながった。多数の教師が命を落とし(!)、ドイツ帰りの若手教員が持ち帰った改革の芽は同僚と学生の反対にあってつぶされ続けた。そのアメリカの大学が、いかにして現代のアメリカの大学へと姿を変えたのか――これは、変革の歴史である。
 おもしろい。実は授業で与えられた課題図書だったのだが(正確には進行形で「課題図書なのだが」)、あまりのおもしろさに繰り返し読んでしまったし、この人の別の本、「ドイツの大学」まで買ってしまったほど。夢と理想と現実とのぶつかりあい。これってきっと、どんなところにあるものだから。だまされたと思って、読んでみてほしい。


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