「あの人はインガリー一、いいえ、世界一の魔法使いよ。時間さえあったら、ジンを負かしていたはずだわ。あの人はずる賢くて、わがままで、クジャク並みにうぬぼれが強いし、臆病なの。何ひとつはっきりしたことは言わないし」
                         「アブダラと空飛ぶ絨毯」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(西村醇子訳) 徳間書店


 インガリーからはるか南に下った地の絨毯商アブダラは、夢見がちな若き青年。そしてある夜、うさんくさい商人から売りつけられた空飛ぶ絨毯に乗ったアブダラがたどり着いたのは、美しい姫のいる美しい庭。スルタンの姫<夜咲花>と恋に落ちたアブダラは駆け落ちを決意するが、その直前、どこからともなく現れたジンに<夜咲花>を奪われてしまう。姫を取り戻すことを胸に誓うアブダラだが、激怒したスルタンには命を狙われ、足を踏み入れた砂漠では飢えと渇きに悩まされ、盗賊の親方に捕まり……とさんざんな目にあう。そんな彼を邪魔しているのか支えているのか、とにかく旅の道連れとなったのは、お世辞が大好きな空飛ぶ絨毯、一日にひとつの願いごとをかなえるが、それがすべて災いを呼ぶという精霊の小瓶、悪党面でやたら強いが猫にだけは甘い兵士、兵士が甘やかすのをいいことに好き勝手している黒猫の<真夜中>とその息子<はねっかえり>。さて、アブダラは無事に<夜咲花>を連れ戻すことができるのか……?
 「魔法使いハウルと火の悪魔」続編。といっても、今回はソフィーたちとは風習も言葉遣いもまるで違う国のアブダラが主人公だし、ソフィーもハウルもなかなか出てこない。……と思わせるところが作者のうまいところで、真相が明らかになると、「なるほどね!」と思わずにんまりしてしまうことうけあい。
 姫君探索といっても、アブダラは強い王子様ではないし、<夜咲花>も泣いてばかりの姫じゃない。むしろ、空中の城での姫たちの態度はこれまでの「姫」のステレオタイプとはかけはなれているといってもいいのではなかろうか。魅力的な登場人物たちをたっぷりと楽しんでもらいたい。
(引用はもちろん、ソフィーによるハウル評。さすが笑)



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